広島高等裁判所 昭和26年(う)1013号 判決
法律上犯罪の成立を妨げる理由又は刑の加重減免の理由となる事実が主張されたときは、裁判所は之に対する判断を示さなければならないことは所論の通りであるが、原審公判調書を調査するに、原審公判において被告人が裁判官の問に対して本件犯行当時酒を一升位飲んで居た旨答えて居ることは認められるが、夫以外には被告人又は弁護人から所論の様に被告人が本件犯行当時心神喪失又は心神耗弱の状態にあつた旨主張したことを認める証左はない。而して単に被告人が公判において本件犯行当時酒を一升位飲んで居たと述べたことにより或いは所論の様に証人其の他被告人以外の者の供述中に本件犯行当時被告人は酒に酔つて居た旨の供述があるからといつて夫により直ちに刑事訴訟法第三百三十五条第二項に該当する主張があつたものということは出来ない。従つて原判決が刑事訴訟法第三百三十五条第二項に該当する主張はなかつたものとして何等之に対する判断を示して居ないのは当然であつて所論の様な違法は存しない。次に原審が取り調べた証拠を調査するに、本件犯行当時孰れも被告人が酒に酔つて居たことは認められるが、被告人は平素酒一升位を飲み焼酎を七、八合飲んでも平気で一升位飲むとふらふらする程度であつて一寸酒に酔うと暴行癖があることが認められ、本件犯行当時も多少酒に酔つては居たものの未だ所論の様に心神喪失は勿論心神耗弱の状態にはなかつたことが明らかであるから原判決が本件犯行当時被告人に於て心神喪失又は心神耗弱の状態にあつたものと認めなかつたのは相当で何等所論の様な事実誤認は存しない。